少女とキャストタイトル4

-小話番外編「少女とキャスト」目次-




[緊キュウリ、ペアテムが動、しまた] 
[各ドウオウ答、し]

「…おはよう、エル。」




おはようございます、マスター。
……だがその音声を発声することが出来なかった。

なんだろうこれは。
私は何の映像を視ている?

砂嵐にまみれたその映像にはマスターが映っている。
そうか、マスターは無事だったのか。
アリスは、アリスも無事なのか?

その時一つのプログラムが私の中を走る。
…待て、登録情報の書き換え?
どういうことだ。どうなっている。


そもそも………今は、“いつ”だ?


【登録情報の書き換えが終了しました。】
【旧所有者から新所有者へ変更。新所有者名■■■■・・・・】

















「旧アークスシップ9番艦、調査部隊の者はコチラへ。」

「ありがとう、いってきます。」


30名ほどを乗せたシャトルが出発する。
行き先は…私の故郷。

あれから10年が経った。
私達が住んでいたアークスシップ9番艦、通称ハガルは
突如として現れたダーカーの集団による襲撃を受けた。

襲撃から1時間が経過し、到着したアークスによる殲滅作戦が開始。
シェルターに逃げていた私達は避難シャトルで救助されたのだった。



脱出するシャトルから見たハガル、故郷は…今でも目に焼き付いている。



あの事件の後は、疎開先に到着し普通に生活をしていた。
もちろん全て元通りにはならないが
それでも不自由なく生活は出来ていたと思う。

そして、事件から8年が過ぎ、私は軍保有の調査部隊へ志願したのだ。
周りからは非難されたが決意は固かった。
どうしてもやらなきゃいけないことがあったから。

2年かけてようやく実施調査隊に配属され
ハガルへ向けて、こうしてシャトルに乗ったわけだ。
いや…ハガル跡地、と呼んだほうがいいのかもしれない。



シャトルが出発して3時間ほど。
亜空間航行も終わり到着時間が迫った。

シャトルの窓から見える景色に、心が軋む。
かろうじて船の形は保っているが
見るに耐えないほど荒廃していた。

きっと酷い顔をしていたのだろう。
添乗員が声をかけてくれた。




ハガルへ降り立ち、計画されていたプランに沿って進み始める。
この実地調査は既に5回目であり、環境調整は済んでいる。
おかげで生身で降り立つことができているわけだ。

ダーカーによる汚染もなく
ここはただの荒廃した場所である。

良く来た公園
嫌だった病院
仲の良かった友人の家
スクールの帰りに立ち寄っていた雑貨屋

…そして自宅への帰り道だった大通り。
どれも記憶にある風景とはかけ離れていてとても辛い。





「ただいま。」


言葉が漏れる。
30分ほど歩いた先で、足を止めたのは私の自宅だった場所だった。

屋根は崩れ落ち、塀は壊され、柱がかろうじて数本残っているだけの。
もちろん2階の形はない。階段と思われるモノがあるだけだった。
目を伏せたくなったが、心を強くもって前を見つめる。

瓦礫の山を前に、私は機材を広げ始めた。
まずは、予定を組んでいた調査概要を開始した。

もちろん…カタチだけの調査。それ自体になんら意味はない。
「異常見られず」の一言を添えるためだけの時間だ。




小一時間ほどで調査を終わらせ
本来の目的を始めよう。

瓦礫の山の周りを一周し、少し離れた所でソレを見つけた。
表面の一部は朽ちて剥がれ落ち
両腕はもぎ取られ
壁にもたれかかったまま全ての機能を停止させ
瓦礫の一部と化していた



白いキャストの姿を見つけた。





懐かしさと共に、こんな姿になってまでココを守ってくれていた彼に
涙が止まらなかった。


「……待っててね。」


涙を拭いながら私は作業を始めた。
もちろん、動かなくなった彼自身を持ち帰ることは出来ない。
だから私が出来ることは電力の供給、そしてメインコンピューターの抽出。
人間で言う“脳”の部分に損害はなく
幸いなことに持ち込んだデバイスを介せば復旧は可能そうであった。

携帯発電機による供給で各回路に火が灯る。
血液が巡るように息を吹きかえしていく彼の体。
私は緊急リペアプログラムを起動させ、OSを復活させた。


[■■■■...■■■■...]


聞き取りづらいが、どうやらプログラムは無事に起動したようだ。
雑音まみれだが音声案内が聞こえ始めた。



「…おはよう、エル。」


自然と、いつもの挨拶が、私の口から漏れていた。
続けて私は一つのプログラムを起動させる。




「初期設定パスコード認証、所有登録情報の書き換えを開始。」

「所有者名を Sallie Tusker から Alice Tuskerへ変更。登録開始。」


【登録情報の書き換えが終了しました。】

登録が終了したとのアナウンスが、私のデバイスに表示される。
母から教わっていたマスター権限初期化プログラム。晴れて私が新マスターになった。
これで彼を救うことが出来るようになったのだ。 
肩を撫で下ろす。後は彼の中枢をデバイスに移動させるだけだ。

 
だがその時、デバイスから音声が流れた。

それはとても冷たくて、機械的で…
全てを包み込むような、暖かな一言。

それを聞いた私は、もう耐えられなかった。
溢れ出る涙を止めることが出来なかった。 
膝から崩れ落ち、ボロボロになった彼の体によりかかって大声で泣き叫んだ。


ありがとう、ただいま…と。






[オカエリナサイ…アリス…]
少女とキャスト4